2024年1月4日木曜日

高福祉社会スウェーデンの自殺の実態

 私に時間の余裕が生まれたら、取り組みたいと思っているのが、自殺問題です。スウェーデンでも自殺で命を絶つという人が多くいます。年齢にかかわらず、自ら命を絶たなければならない状況になってしまうまでに、何とかならなかったのだろうか、思いとどまることができなかっただろうかと思います。私は、アラフォーですが、親せきや家族、同僚や、知り合いの知り合いと数多くの自殺者を見てきました。私自身が何とかできなかっただろうかと思う出来事もあり、いつかこの分野で何か私なりに貢献できればと思っている次第です。スウェーデンで自殺が増える時期は春ですが、これに加えて多いのがお正月なのです。クリスマスや正月といった家族や友達が集まるときに一人であると、自殺がふと頭をよぎるというのは、私にも想像ができます。これに加えて、アルコールの摂取量が増えることも要因ではないかといわれています。今日は過去の投稿を含めながら、高福祉社会スウェーデンの自殺の実態を見ていきます。

1.突然の同僚の自殺

 もう5年以上がたちましたが、それでも思い出す同僚の自殺があります。過去の投稿よりリライトしながら、今一度振り返りたいと思います。2月の終わりにあるスポーツ休暇でフィンランドを訪れていると副校長から電話があり、突然の同僚の自殺を知りました。普通に1日仕事を一緒に終えて、また、来週も普通に仕事を一緒にすると思っていたのに、その「普通」が戻ってくることはなく、彼女は自らの命を経ちました。このことに私を含めた同僚たちは大変大きなショックを受けました。彼女の死を悼む会で、同僚が話した言葉で印象に残ったのは「自殺は、死にたいからするのではなく、生き続けることができなくなったからするのだ」と。私もこの言葉を今なら強く言えます。何人かの自殺を選んだ知り合いを思うと、本当は行きたかったのだろうと思わずにはいられません。彼女との職場での日常からは、このような別れが待っているとはとても想像できず、しかしながら、振り返ると、彼女なりに出していたSOSはあったのかもしれないとも思います。

 自殺が人に与える影響はとても大きく、残された人々は後悔をすることも多いと感じます。だからこそ、自殺の話をもっとしていく必要があるのではないかと思います。近年スウェーデンでは若者の精神の不健康が大きな問題となっており、若者の自殺も少なくありません。早いうちから、自殺を含めた精神的健康に関して学校で教えていくことは重要であると思います。

2.スウェーデンの自殺の統計

 スウェーデンでも自殺は、公表しない、隠す傾向があります。警察が公表する出動記録にも、自殺の場合はその旨は掲載されませんし、鉄道関係も自殺による遅延を公表しません。以下は社会庁の2022年の自殺の統計で、「年齢別10万人当たりの自殺者割合の推移」になります。スウェーデンは安楽死を法的に認めていないこともあるのか、高齢者の自殺が多い傾向にあり、社会庁の分析によれば、若者の自殺は減少傾向にあるとあります。自殺の方法として多いのは、薬と首つりで、男性はこれに加えて銃殺も多いとあります。
以下のグラフは、自殺未遂の年齢別男女別の10万人当たりの統計になります。自殺は減少傾向にある若者のも、かなり多くの自殺未遂を行っているということがわかります。


 自殺に至るには、様々な要因があると思います。自殺を思いとどまるまでにかかる時間は約20分といわれており、自殺を防ぐために様々な取り組みがされています。自殺が多いといわれる場所では簡単に入れないようにしたりするなどして、この20分の壁を作ったり、薬は少量でのパックにするなどといった外的なものから、家族や友人による20分が重要であったりします。自分がつらいときには助けてと言える自分でありたいし、誰かからのSOSには、支えられる人でありたいと思うのです。

3.自殺予防プログラム

 数年前ですが、自殺を減らす教育をストックホルムの生徒に行うというプロジェクトがありました。2017年の投稿のリライトをしながら書いていきます。このプログラムは、既にEUの10か国で11,000人の生徒に対して行われた(2017年当時)そうで、プログラムには予防効果があり、新たな自殺未遂が半分に減ったとのことでした。そこで、スウェーデンでも、まず、ストックホルム県内の生徒たちに試しに行ってみるということでした。「Youth Aware of Mental Health」の頭文字をとって「YAMプロジェクト」と呼ばれるこのプログラムの一番の目的は、若者にうつ病や自殺願望、人生の危機における対処の仕方、精神的な不健康に関する知識を持ってもらうことと、健康的なライフスタイルによって精神の健康を保つ方法を学んでもらうというものだそうです。2016年秋学期には、25校、約3,150人が受け、このうちの約20校、約2700人の生徒が終了後のアンケートに答えており、今後の研究に生かされるようです。この秋からは、さらに93クラス、約2,500人の生徒が受けることになっているとのこと。今後の目標としては、ストックホルム県内すべての学校でこのプログラムを行うことだそうで、EUの時と同様に成果がみられることが条件となります。

 プログラムは5時間で3週間にわたって、7年生と8年生(中学1,2年生)に行われるということで、割と手軽に行えるイメージを受けました。生徒たちが考える時間を持てるように、間をあけて行われるようで、ロールプレイをしたり、討論をしたりする時間もあるとのことです。主な内容は以下の通り。

  • 精神的に不健康に陥りそうな、もめ事や困ったときの対処の仕方に関する知識を学ぶことにより、自分の身に起こる出来事に対する対処する力を身につける。
  • 様々な精神状態の体が発する信号を学び、自分自身や友達を助ける方法を学ぶ。
  • 学校の生徒の健康にかかわるチームの専門員や教員、そのほかの学校職員が精神の健康に関するより深い知識を持つ。

 書かれていたロールプレイの内容は、「みんなランチを食べ終わり、自分一人がランチルームに残ってしまたらどうするか。」や「酔っぱらった人の運転する車に乗るか。」といった、単純な起こりそうな人生の出来事から考えさせるようです。そこから、「先生や友達にいじめられたらどうするか」や「妊娠してしまったり、家庭に問題があったらどうするか。」と徐々に深めていくとあります。

 中学生で自殺をすることは、そういった考えを持つ前にただし知識を持つことにより、精神的にも健康に生きる生き方を身につけ、体の出す信号に気を付けるようにし、自殺の前に助けを求められる人になってもらうということだと思います。プログラムを行うときは、常に複数で行い、途中で何らかの兆候を見せる生徒には、学校の専門チーム、医療機関と連携をして、対処をするそうで、既につらい状況に置かれている生徒にとって、こういった内容を勉強することは簡単ではないので、専門の人々がついていることは大きいと思います。

 このプロジェクトから、すでに5年。どのような結果となったのか知りたいところです。年末には新たな若者向けの自殺プログラムの話も聞きましたので、前回のものと同じなのかも知りたいところです。


 中年の危機を迎える年齢となり、感じるのは、生きていくことは簡単そうで難しく、どの人にもその人の悩みがあります。その悩みは外から見えることは少なく、その人の心にいかに寄り添えるかは、教員として重要であるとも思いますし、一人の人間として、私に関わってくださる皆様と真摯なお付き合いをしながら、助け合って生きていけたらと思います。スウェーデンにも多くの公的な機関やNPOがあり、様々な支援を行っています。もしも、生きていくのがつらくなったら、誰かに手助けを求めてほしいと思います。生きているだけ、あなたも私も十分な価値があるのですから。自殺について、もっといろんな話をしていけたらと思う新年です。

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